契約不適合


契約不適合責任


民法
第562条 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
2 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。


家を買ったときに受けた説明と違う」
「こんな欠陥があるのに、何も言われなかった」
「買ったばかりなのに、直ぐに壊れた」
不動産を購入した後になって、思わぬ事態が起こることがよくあります。
家を買ったものの、思っていたものと違っていた場合、どのように責任を取ってもらうことができるのでしょうか。
民法は、売買契約が終わったあとでも、契約した内容と異なっていることを理由に、売主に責任を追求する規定を定めています。
民法第562条から564条は、売買の目的となる物又は権利に欠陥がある場合に、売主が負う責任をして、売主の担保責任を規定しています。これを契約不適合(契約内容不適合)といいます。

契約内容不適合
家を買うとき、パンフレットや家自体をよく見ることは誰でもします。しかし、契約書はどうかというと、じっくり見ない人もいます。
家を買ったときの不具合が、契約内容不適合かどうかは、売主と買主双方の主観的な側面(契約書の内容)、目的物の客観的な状態(通常有するべき品質)、取引上の社会通念(法律では決まっていなくても、取引市場では習慣であったり常識とされている決まり事)によって決まります。
日常品なら良いですが、家のような特別の買い物のときは、自分固有の事情があると思います。耐震性に普通以上にこだわっているとか、日照をどれだけ確保したい、静かな環境などそれぞれです。
週末に一度下見したときに、周囲が静かだったので気に入ったと思い、セールスの人もこのあたりは落ち着く環境ですと購入を勧めてきても、買ったあとに、実は平日は一つ向こうにある作業場が大きな音を出すことが分かった、など思ってもいない事態になることもあります。
契約書に、目的物の品質として、静穏な環境の記載があれば、解約が難しい場合でも、少なくとも防音設備による追完を求めたりするなど、後々、責任追及をしやすくなります。
パンフレットが実際の家と全く食い違うときは、虚偽とか誇大だとして責任を問うことはできます。しかし、パンフレットというものは、もともと良いところを強調するように作られているため、虚偽だと認めさせるのは難しい場合もあります。
購入前に実物見たときのイメージは、あくまでも個人的に受けた印象でしかありません。それが形となって残っている訳ではありません。
販売業者がいい加減なことを言って、その言葉を信じたという場合もありますが、そんなことは言っていませんと返されるとそれまでです。
やはり、契約書という書面は重要な意味を持つことになります。
契約書は、売主側が既に作ってあるものにサインをするだけのものという考えを持っている人も少なくないと思います。しかし契約書はあくまでも、売主と買主の両方の合意によって完成させるものです。
民法第521条 何人も、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定することができる。
2 契約の当事者は、法令の制限内において、契約の内容を自由に決定することができる。
家を購入するときに交渉するのは価格だけと思い込むのではなく、交渉するのは契約内容という意識を持つことが大事です。
契約内容に追加させる項目の例
条件をはっきりさせる。不動産を購入するにあたって、条件があるならはっきりしておきます。例えば、「金融機関による融資が受けられることを条件とする」「今住んでいる住居の買い手が現れないときは解除できる」
理由も付記しておくのも良いと思います。「老後に、バリアフリー対策された住まいに住み替えることを目的とした契約である。」「来年度に本物件の徒歩5分の場所に新しい駅が作られる計画があるという説明を受けたため、交通の利便性を動機として・・」などの一言が書面として残っているだけで、問題が発生したときに使い道があります。(民法の詐欺、錯誤の規定や、消費者契約法による保護を受けやすくなります。)


効果
@履行の追完(目的物の修補・代替物の引渡し・不足分の引渡し)
A代金減額
B損害賠償 ※売主に帰責性(責任)がある場合に限る
C解除

@ 履行の追完
民法は、種類、品質、数量に関して、契約内容と適合していない場合に、買主は、売主に対して、目的物の修補、代替物の引渡し、又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができるとしています。
つまり、買主の方から、今のものを修補してもらうか、代わりのものに交換してもらうか、不足分の追加してもらうか手段を選んで、売主に求めることができるとしています。
しかし、民法は続けて、売主は、買主に相当でない負担をかけないのであれば、買主が選んだ方法とは異なった手段で追完してもよいとしています。
買主が売主に、新しいものに交換して欲しいと言ったとしても、修理すればほぼ元に戻るというのであれば、売主はそれで責任を果たしたことになるということです。
家の話ではありませんが、新車を買ったら、運転席のドアに傷がついていたという場合、そのドアだけを丸ごと交換すれば、ほぼ元に戻ります。しかし、買った側からすれば、乗る前から修理品というのには抵抗があるかもしれません。
この契約不適合は、内容を売主と買主の同意で廃除したり、追完の方法を指定することができます。ですから、あらかじめ、追完は新しいもので代替すると決めておくこともできます。こうした事前の約束事は、契約書にしっかりと書いておくようにします。逆に、売主の方が、自分にとって都合の良い内容を織り込んだ契約書を用意していて、それをよく読まないうちに買主が署名押印をしてしまうことがあります。
自分が売主側だったら・・と考えてみると、あらかじめ自分の都合がよい内容の契約書を作っておいて、相手にサインさせようとするのではないでしょうか?しかも、あからさまに偏った内容だと相手もおかしいと気づくので、分からないように織り交ぜる、という人もいるかもしれません。
自分が売主であるのなら、相手に気付かれないような自分に都合の良い契約書を作成たいと思うでしょうし、買主側なら、気付かれないように織り交ぜられた不都合な部分を、契約書の中から探し出したいと思うでしょう。こうしたときは、契約の締結前に法律の専門家に、契約書の作成やチェックを依頼するのも一つの方法です。

契約不適合の適用廃除の例外
1 宅建業者自身が不動産の売主となる場合、民法の規定より買主が不利になるような特約は禁止されています。
宅建業法第40条 宅地建物取引業者は、自ら売主となる宅地又は建物の売買契約において、その目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任に関し、民法(明治二十九年法律第八十九号)第五百六十六条に規定する期間についてその目的物の引渡しの日から二年以上となる特約をする場合を除き、同条に規定するものより買主に不利となる特約をしてはならない。
2 前項の規定に反する特約は、無効とする。

2 事業主が個人消費者に対して売買するとき
消費者契約法第8条2項 前項第一号又は第二号に掲げる条項のうち、消費者契約が有償契約である場合において、引き渡された目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないとき(当該消費者契約が請負契約である場合には、請負人が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない仕事の目的物を注文者に引き渡したとき(その引渡しを要しない場合には、仕事が終了した時に仕事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないとき。)。以下この項において同じ。)に、これにより消費者に生じた損害を賠償する事業者の責任を免除し、又は当該事業者にその責任の有無若しくは限度を決定する権限を付与するものについては、次に掲げる場合に該当するときは、前項の規定は、適用しない。
一 当該消費者契約において、引き渡された目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないときに、当該事業者が履行の追完をする責任又は不適合の程度に応じた代金若しくは報酬の減額をする責任を負うこととされている場合
二 当該消費者と当該事業者の委託を受けた他の事業者との間の契約又は当該事業者と他の事業者との間の当該消費者のためにする契約で、当該消費者契約の締結に先立って又はこれと同時に締結されたものにおいて、引き渡された目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないときに、当該他の事業者が、その目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないことにより当該消費者に生じた損害を賠償する責任の全部若しくは一部を負い、又は履行の追完をする責任を負うこととされている場合


A 代金減額請求
買主は、相当の期間を定めて、履行の追完の催告(@)をして、その期間のうちに追完がなかったときは、適合していない程度に合わせて、代金の減額を請求できるようになります。つまり、いつまでに修補するようにといった具合です。
次の場合は、「いつまでに」と言っても無意味なので、直ぐに減額を請求できます。
・追完のしようがない(不能)のときは、期間を待っても不能なことに変わりがない。
・売主が、追完をする気はないと明確に拒絶したときは、待っても無意味なだけです。
・あるときまでに履行しないと目的が達成しない場合で、その時が過ぎてしまったとき。買った意味がなくなるからです。
・催告しても、追完を受ける見込がないことが明らかなとき。

B 損害賠償請求
売主に帰責性がある場合です。

C 解除
売主に帰責性がなくても解除はできます。契約と適合していないのであれば、早く次の取引先を見つけることができるようにするためです。

BとCは債務不履行による損害賠償請求と解除の規定が準用されます(民法第564条)